3/17宗教学者による解説(証人:大田俊寛、正木晃)③

証人:正木晃

経歴
筑波大学大学院卒業
専攻は日本密教
現在は立正大学慶応義塾大学で講師
チベット・ヒマラヤには20回程度行った
「性と呪殺の密教」を執筆
この本は、正しい密教を伝えるために書いたもの
チベット密教に対する誤解が多い

オウムの信者では、早川と新実に会ったことがある
サリンを作った信者をチベットに連れて行ったこともある

そもそもチベット密教とはなにか?
約2400年前に釈迦が誕生
その400年後に大乗仏教が登場
5~8世紀に生まれた密教は、空海によって伝えられた
日本において、真言宗天台宗の一部を除きすべて顕教

密教とは?
神秘的で、行を中心に行われる
体で体感するもの
大乗では悟りに至るまでに長い時間がかかる
5~6世紀以降、今の体で悟るために生まれた方法
8世紀の後期密教にて、「空は最高の快楽である」という考えがとうじょう

1959年のチベット動乱で、密教は世界に広まった
今、欧米でチベット密教が広まっている
チベット密教の信者数は、チベット人300万人+ブータン・インド・ネパールの一部の人々+欧米の知識人

輪廻転生とは?
チベット東南アジアの国で信じられている思想
私たちは「地獄に落ちる」を一種のメタファーとしてとらえるが、オウムではどうだったか?
オウムは三悪趣や地獄などの考えを持っていた
日本では、地獄の考え方が江戸中期以降、良くも悪くも消えた
オウムは、私たちが忘れ去っていたことを持っていた

ポアとは、本来は阿弥陀如来のなかに自分の魂を移し替えるという意味
オウムにおけるポアとは、度脱法(ドル)に近い
度脱法とは、これ以上悪いことをしないように呪い殺して、如来様のところに移す
具体的には、呪いで消化器官を壊す


顕教では、会陰部を刺激しない座禅のかたちをとる
密教では、あえて会陰部を刺激し、クンダリニーを覚醒させる
チベット密教の宗派のうち、ダライラマが属するゲルグ派において最高の価値を持つ「秘密集会タントラ」において。性的なエネルギーを解脱に使うことが説かれている

どの宗教でも、根本体験がある
イスラム教において、ムハンマドアッラーに会うこと
ブッダが菩提樹の下で悟ること
修行において、光が見える、グルが夢に出る、幽体離脱などが起こる
自分が信じるものと一体感を得ることができる
一方、表層に出てくるものを深いものと取り違えるのはよくない
LSDなどによる体験は表層のもの
麻原の神秘体験の信ぴょう性は?
本当に深いところまで行ったかどうかは、私は否定的

チベット密教による、グルと弟子の関係
日本の禅宗においても、本尊とグルを一体化させる
密教でも、グルが亡くなるのは実の父が亡くなることより悲しいもの
その一方、密教を教えるにあたっては、「本当にこの人を信じていいのか」
また「この人に教えていいのか」をよく考える必要がある
教えるまでには数年を必要とする
師の選び方は、非常に慎重に行うべき
1人の師に対して弟子は1人で十分
3人弟子がいれば、万々歳というかんじ
麻原は、弟子が多すぎる点がおかしい

ヴァジラヤーナとは
ダイヤモンドのような乗り物で、密教に存在する考え
「師はその人の先を見通すことができるので、殺してあげる」という思想について
世俗で許されない行為をするのは密教においても認められない
非社会的であってもよいが、反社会的なことは症例されない
それは、度脱法とは矛盾しないのか?
「殺せ、殺せ・・・」というタントラは存在する
しかしチベット密教では、聖典の文言をそのまま受け取ってはいけないとされている
一方、この度脱法を実践した者もいる
ドルジェタクという行者のような人物
彼は、自分を殺そうとした人を呪殺した
しかし彼が行ったのは、祈ることだけ

マハームドラーは、密教にもあるのか?
マハーは大きい、ムドラーはしるしという意味
密教においては性的なパートナーを意味する
一方、カギュ派ではマルパがミラレパにやらせたこともある

麻原の密教の指導者としての問題は?
やまほどある
解脱者と自称しているが、悟ったのであればあえて解脱せず、何度でも生まれ変わってこの汚れた世界を救うべき
一方で、麻原は尋常ではない力、能力を持っていたことは認めざるを得ない

カーラチャクラタントラとは?
10世紀における教え
イスラム軍と仏教軍の戦いにおいてインドの仏教軍が勝利しシャンバラを作ることが説かれている
とても難解な聖典で、一般的に信奉されている考えではない

今後、同様の事件が起こらないようにするために
オウムを研究する必要があったのにもかかわらず、伝統仏教は「あんなもの関係ない」という態度をとってしまった
学問においても、教義が中心で、修行についてはあまり考えない
また、「いまオウムについて研究すると、就職先がない」と言う研究者も多い

検察官尋問

密教に至るまでの修行にかかる具体的な期間は?
30~35歳まで顕教を勉強
その中で、10人に1人程度、師匠から密教の伝授を受ける
一般的に7歳程度で出家し、12年くらいの時間をかける
入信してからも、師匠と弟子は見極め続ける

疑問を持ち続けるのが仏教なのではないか?
ブッダの体験を追体験することが、弟子のすること
この師に従うと決めてから、外れることは難しい
それはなぜか?
グルと本尊を一体化させるので、よほどのことがないと師に引っ張られる
絶対的な帰依、絶対的な服従が必要
自分の解脱を後回しにする方法もあるのでは?
グルのひどい行為が明々白々である場合は自己判断すべき
しかし、納得できなくてもついていくという考えもある

麻原の霊的エネルギーについて
シャクティパットのしすぎで、力が落ちていったことが考えられる
麻原の奥さんも少しはシャクティパットができたようだが、その埋め合わせをするためにLSDを使ったのではないか

裁判員質問
⑤さん
シャクティパットとは?
手かざし系の宗教や、修験道でも行われる
これを受けて失神する人もいるため、インチキではないと思う
また、これにより信が深くなる
シャクティパットでは、仏の力を使っているというが、実際は消耗する行為
山籠り等をせずにやり続けると、力が落ちていってしまう

③さん
麻原が人の心に甚大な影響を与えることができたと考えるのはどうしてか?
信者が絶対帰依していったという事実
裁判の資料を読んで、そのように感じた
宗教の歴史上、時々そういう人が出てくる

 

~~~~~終了~~~~~

3/17宗教学者による解説(証人:大田俊寛、正木晃)②

オウムは、突然現れた特異な宗教ではない
 
なぜ、あの時代にたくさんの若者がオウムに入信したのか
①死生観
②経済
③学問
 
①1)19世紀以前は、パブリックな死生観があった
(例:お正月にご先祖様が戻ってくる)
しかし、政教分離でこれが消失
→疑問を持たなくなるわけではない
 
パブリックではなく、オカルトやサブカルチャーの領域で扱われる
 
2)死に触れることが極端に少なくなっている
従来、人は家庭の中で老い、病み、死ぬ
場合によっては、自ら武器を取って戦う
しかし、現代では病院や軍隊の発達により、そういった機会が失われる
 
麻原はたびたに説法で「人は死ぬ、必ず死ぬ、絶対死ぬ、死は避けられない」と説いていた
 
②80年代 "Japan as No.1"
バブル的好景気のなかで、麻原は物質的な欲望の空しさを教えた
三毒「貪・瞋・癡」と呼ばれる煩悩を超える
 
③理系「ニューサイエンス」…科学と宗教の融合
文系「文化人類学」カルロス・カスタネダ
 
どうしてオウム事件が起こったのか
それまでの日本の宗教学は、オウムへの歯止めの役割を果たさなかった
逆に、後押しするような存在になってしまった
 
サリン事件以前の宗教学者
中沢新一(80年代のスター学者)
1989年「狂気がなければ宗教じゃない」において
「宗教の本質は狂気や反社会性」と語り、
1991年「オウム真理教はそんなにメチャメチャな宗教なのか」において
「狂気の悟りという考え方が日本でも理解されはじめた。最終的な物質vs精神の対立の時代がいよいよ始まる」と語っている
 
1990年頃からマスメディアに登場
オウムの波野村施設へ訪問等
「麻原は過小評価されている」
オウムを擁護し、幸福の科学を痛烈に批判
「日本の仏教は世俗化しているからオウムが特異に見えるが、彼らこそが仏教の伝統を正しく受け継いでいる。(朝生にて)議論に積極的に関わったことで、オウムがおかしな宗教ではなく、伝統に根ざしていることが理解されたのではないか」と述べた
 
麻原と対談し、「宗教団体としては、最後まで俗世間の法律は無視するという手もあると思うんですよ」と発言
 
④池田昭
「オウムが邪教だと、そういう先入観念がマスコミによって植え付けられたということがあって、そういう宗教に対して警察やら行政当局は何をやってもいいんじゃないかという動きが出てきたと思う」
坂本堤弁護士は、国とも戦っていた。坂本をやったのは、国家じゃないの?」と発言
 
おわりに
宗教学者の責任について
オウムを批判した人は、ほとんど一人もいなかった
この場を借りて、自分も宗教者として、大きく見誤ったことを深く謝罪したい
申し訳ありませんでした
本来は、事件直後に宗教学者が率先して、どうしてこういうことが起きたのか解決していくべきであった
上層ではない末端信者である被告人が17年逃げたのは、本人もオウムとは何だったのか分からないからなのではないか
 
検察官尋問
マハームドラーについて、内部のことを調査されたのか?
それはできないが、元信者の証言がある
基本は手記を読んだ
その中に、CHSのメンバーはいたのか?
いない
ポアについて、内部では激しく葛藤しても、とあったが、悩むということか?
それは人間だからあると思う
グルは慎重に選ばなければいけないのでは?
それはそのとおり
虹の階梯にもそう記されている
しかし、実際に批判的な目を持ったり疑ったりすることのバランスを取るのは難しい
宗教学者の行動によって、オウムをとめられたのか?
ifになるのではっきりは言えない
でも、チベット密教とは外れる部分があることの説明は出来たのではないか
オウムでは、どこまでヴァジラヤーナが浸透していたか?
聞き手が誰だったかは、経典には書かれていない
麻原が信者を選んで説法していた
種の入れ替えについての話は、上層部にのみ説かれていた
当時の信者数は?
平成7年時点で、ロシアで2-3万人、日本で1-2万人
被告人が末端なら、大幹部以外は末端ということになるのか?
被告人はCHSの次官なので幹部になるかもしれないが、麻原から直接指示を得る立場ではない
犯罪を犯した信者と侵さなかった信者の基準は?
麻原の目にとまったか、とまらなかったかということ
やれと言われればやったという人が大半
普通なら、人を殺したら苦しむってことは分かりますよね?
取り返しのつかないことをやってしまい、引き返す道がなくなってしまったのではないか
 
裁判員質問
②さん
図にあった善業と悪業の区別の基準は何か?
六波羅蜜という基準があるが、オウムの基準は伝統的な仏教とはズレていた
悪業とは、物欲にふけって霊的なことから目を背けること
③イニシエーションとは何か?
もともとは、成人になるための試練の意味だった
 
裁判官質問
オウムは、阿含宗より実践的だったのか?
阿含宗はメディア戦略を使い、本を書いて、これをやってみてねという感じ
麻原は、信者と密接に触れ合っていた
オウムにおいて麻原は唯一の解脱者
その他の信者は〜〜ヨーガの成就者と分けられていた
 
〜〜〜〜〜終了〜〜〜〜〜

3/17宗教学者による解説(証人:大田俊寛、正木晃)①

3/17宗教学者による解説
 
 
経歴
その後、東京大学大学院
2007年から埼玉大学で非常勤講師
 
2012年の〈atプラス13〉にて「オウム真理教を超克する」と題して上祐史浩と対談
その際、上祐は「1988年に麻原から、オウムは人類の種の入れ替えを目標にしていると明確に言われた」と発言
 
超人類(霊的に進化した人々)vs動物(退化した人々)という構図
f:id:rnk33:20150422182634j:plain
社会のマジョリティは、物質的な豊かさを求める人々→悪業
→この動物的な人々を、武力を用いても粛清すること
 
今の人間は、動物以下
ものすごい数の生き物を殺している
ものすごい数の嘘をついている
オウムは救世主的、管理する側の立場
ハルマゲドンを意識している
 
あらゆる分野が、ユダヤフリーメーソンに支配されている
日本人は物質的欲望に縛り付けられている
ユダヤの陰謀は近い将来完成する
日本人は洗脳支配されている
オウムは攻撃的だと思われているが、洗脳されている者を救済する
 
150年前にオカルティズムの思想
ブラヴァツキー夫人(霊媒師)
1873年 ダーウィンの進化論のブーム
→人間は肉体のみでなく、霊や魂も進化する
1875年 「神智学協会」発足
1888年 「シークレットドクトリン」を執筆
→人間は、「神人」に近づく人と、「動物」に退化するものに分かれる
「神人」に近づくために、ヨーガや仏教の修行が有効
 
1960年代「ニューエイジ」
ベトナム反戦運動から生まれ、反体制、反社会を訴えた
物質的文明から霊的文明へ
 
「人は空中浮揚出来るようになる。個人の涅槃だけでなく、地球のヴァイブレーションが綺麗になる。」→ユートピア
これは、オウムのシャンバラ化計画と共通する
 
阿含宗桐山靖雄 (=桐山密教)
(麻原、早川、林郁夫、被告人も入信)
「人は誰でも超能力神になることができる」
チャクラの開花によって能力を開く
念力ゴマで火を起こす
信徒「いくら修行しても、超能力者にならない!」
1980年代 方向転換→先祖崇拝
→これを受け入れられない人がオウムへ
 
1972年 桐山靖雄「終末論」
「ホモサピエンス文明は極限を迎え、戦争等が起きている。今は集団自殺の時期。ホモエクセレンス(超人類)が新しい文明を作る。」
 
1981年 中沢新一「虹の階梯」
東大で博士号取得後、ネパールで修行
階梯とはステップの意
→心の本性への到達
密教のグルはエキセントリック。成就者はしばしば人の理解を絶した力を振る舞う。ありきたりの考えにとらわれてはだめ。瓶の中の水をほかの瓶に移し替えるようにすべし。」
1983年麻原は「虹の階梯」の読書会を行っている
 
マハームドラー=大いなるシンボル、しるし
グルイズムの修行の一つ
グルから弟子に投げかけられる"謎かけ"
理不尽なこともあり、不思議に思うが、言われた通りにする
オウムでは、マラソンの世界記録、海の下に都市を作る、1ヶ月に30冊の本の出版など
人間は、固定観念にとらわれている
これにショックを与えて壊すこと→"観念崩し"
 
ポアとは、本来は移し替えるという意味
チベット仏教における教義
ものすごく修行が進めば、他者の魂をコントロール出来る
究極のテクニック
内面では激しく葛藤していても、結局殺したら、バルドーに入った魂をグルがポアしてくれる
f:id:rnk33:20150422182756j:plain
 
1980ー90年代
チベット死者の書」(バルド・トェ・ドルチェンモ)=聴聞による大解脱
多くの人がこの番組でバルドーやポアを知った
オウムだけがこの思想を解いているのではない
末期のオウムを後押しした
 
ヴァジラヤーナとは、金剛乗のこと
小乗(ヒナヤーナ)…自分が救われる
大乗(マハーヤーナ)…大衆を救済する
金剛乗(ヴァジラヤーナ)
秘密真言金剛乗(タントラヴァジラヤーナ)
=ポアやグルイズムによる人類の種の入れ替え
真理を実現するためには、手段を選ばない
グルを絶対的な立場に起き、自己をからっぽにするよう努力する
(PSIの使用等による、クローン化)
悪業を積んでいる魂を、解脱者である麻原が判断し、生命をトランスフォームさせてあげる、すなわち、殺害して次の転生に送り込む